南フランスで生まれで、親しまれているお菓子タルト・トロペジェンヌについて、由来やレシピなどすべてを紹介したいと思います。本場のコート・ダジュールでのトロペジェンヌ専門店のレポートもあります。
ちなみに、2025年はトロペジェンヌが広まって70周年の記念年です。

タルト・トロペジェンヌとは?
タルト・トロペジェンヌはブリオッシュの間ににムースリーヌクリームを詰めたお菓子のことです。ムースリーヌクリームとはクレームパティシエール(カスタードクリーム)にバターを加えたクリームです。南フランスのサン=トロペというコート・ダジュールの町で生まれました。南フランスでは専門店があるほど人気で、夏のバカンス時期に食べたくなるお菓子です。
本来は、中身のクリームにクレームムースリーヌをもちい、2cmほど分厚く塗ります。クレームムースリーヌとは、カスタードクリームにバターを合わせたクリームのことで、しっかりとした硬さがあるが口溶けの良いクリームです。
クレームムースリーヌの代わりに、シャンティイクリームやカスタードクリーム、ディプロマットクリームを詰めることもあります。また、苺やフランボワーズを加えることもあります。
一人分のポーションのトロペジェンヌから10人分(それ以上)のホールのものもあります。


なぜタルトという名前?
タルト・トロペジェンヌには「タルト」という名前がついています。わたしたちが想像するタルトとは違う形をしていますし、生地はブリオッシュ生地を使っていますが、なぜ「タルト」と呼ぶのでしょうか。
それは、フランスでは生地を器にしているお菓子のことをタルトと呼びます。特に、ブリオッシュ生地はタルトとして呼ばれることが多いです。例えば、砂糖のタルト(Tarte au sucre)はブリオッシュ生地を平たくしたものに砂糖とクリームを加えて焼いています。
このタルト・トロペジェンヌはふたつに切ったブリオッシュ生地を器として用いています。
また、「タルト」をつけずに「トロペジェンヌ」だけでも十分に通じます。
マリトッツォとトロペジェンヌの違いは?
日本で数年前に流行ったマリトッツォとトロペジェンヌの形は似てますよね。どちらもパン生地にクリームを挟んでいます。
マリトッツォ(Maritozzo)はイタリア生まれで、トロペジェンヌはフランス生まれで、それぞれの名前がついてます。生まれば場所が違うので中身のクリームや形も少し違っています。日本で例えると、生地と餡子の組み合わせで、「どら焼き」「たい焼き」「きんつば」「もみじ饅頭」というように名前が変わりますよね。
ちなみに、ヨーロッパではブリオッシュ生地のようなパンは広く作られています。それにクリームを挟むことは自然な流れとしてあるのではないでしょうか。
トロペジェンヌのさらに美味しくなる食べ方
トロペジェンヌの生地ブリオッシュにはラム酒とよく合います。
ラム酒はサトウキビから作られて、ブリオッシュやクリーム系の甘いお菓子と相性のいい蒸留酒(オー・ド・ヴィ)です。ブリオッシュ生地で作るババオラムやサヴァランもラム酒に漬けて作ります。
なので、当然タルト・トロペジェンヌもラム酒と相性がよく、生地がラム酒を吸ってしっとりとします。ぜひお試しください。
フランス語の名前
- Tarte tropézienne
-
[taʁt]tʁo.pe.zjɛn] タルト トロペジェンヌ / フランス語
「サン=トロペ(Saint-Tropez)のタルト」という意味
tarte は女性名詞のため、形容詞「サントロペの(Tropézien)」も女性形になります
トロペジェンヌの材料・構成
表面にあられ糖をふって丸く焼いたブリオッシュを横半分に切り、ムースリーヌクリームを詰めます。
分類 | パティスリー/ガトー/タルト |
構成 | 発酵パン生地/ブリオッシュ生地 ムースリーヌクリーム あられ糖 |
材料 | 小麦粉 全卵 バター 砂糖 酵母 牛乳 |
誕生した時代・場所・人物
時代 | 1955年(20世紀) |
国 | フランス |
地方 | プロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地域圏 |
町・地名 | サン=トロペ(Saint-Tropez) |
人物 | アレクサンドル・ミカ (Alexandre Micka) |
トロペジェンヌの名前の由来
1945年、ポーランド出身のアレクサンドル・ミカは母国での兵役を逃れるために南フランスのサン=トロペに移住し、そこの城壁でドイツ人捕虜の看守を務めていました。その後、その地にブーランジュリー・パティスリーを開店しました。
ミカは祖母から受け継いだブリオッシュに2種類のクリームを詰めたお菓子を看板メニューとして作っていました。
ちなみに、ポーランドの祖母から受け継いだブリオッシュはバブカ、もしくはクグロフのようなものだったのではないかと考えています。東ヨーロッパでは以前より発酵させたふわふわのパンのようなお菓子が作られていました。
1955年、隣町ラマチュエルの海岸で映画の撮影が始まりました。その当時まだ無名だったブリジット・バルドーが主演する映画「素直な悪女(Et Dieu… créa la femme)」です。
ブリジット・バルドー
Bridget Bardot : 1952年に映画デビューした映画俳優で、現在では動物保護活動家として活躍しています。
ラマチュエルのビーチは美しい景観を誇る世界でも有名なビーチの一つです。1950年代からショービジネス界のセレブが訪れるようになり、この映画も影響を与えたものの一つです。
夏のバカンス時期にはこのビーチに訪れようとする車で、周辺の道路が大渋滞になります。ビーチの向こうの海も豪華なクルーズ船で混雑しています。

ある日、彼女はミカのパティスリーから差し入れられたこのブリオッシュ菓子に夢中になり、

このお菓子は「トロペジェンヌ」っていう名前にしましょうよ
と提案しました。
ブリジット・バルドーの提案により、このお菓子の名前をタルト・トロペジェンヌと名付けました。
この映画をきっかけにブリジット・バルドーも活躍し、世界的に有名となり、それに伴うようにタルト・トロペジェンヌも全国的に広まっていきました。
ミカは近くのサント=マキシム(Sainte-Maxime)、コゴラン(Cogolin)にも店舗をオープンさせました。
このミカのパティスリーは新しいオーナーに引き継がれており、南フランスの海岸沿いに29店舗1を展開しています。同様に、タルト・トロペジェンヌも南フランスだけでなく、全国のパティスリーで作られるようになりました。




本場のトロペジェンヌを堪能
ミカが創業したパティスリーは新たに引き継がれ、LA TARTE TROPEZIENNE(ラ タルト トロペジェンヌ)という名前で南フランスで営業しています。


コート・ダジュール地方に29店舗あり、実際に、サン=トロペからニースまでの海岸線沿い(D559)に運転すると、至る所にトロペジェンヌの赤いロゴが並んでいます。
もちろんトロペジェンヌが名物なのですが、元々ブーランジュリーなのでバゲットなどのパン類、ヴィエノワズリー、ほかの種類のケーキも置いてあります。カフェも併設している店もあります。
ちなみに、2025年はトロペジェンヌが広まって70年の記念年です。限定グッズも発売されていました。








本場のトロペジェンヌはクリームがしっかりとした硬さですが、口の中ではすっと溶けて濃厚な味わいです。一般的にクリームはクレームムースリーヌ(クレームパティシエール+バター)と言われていますが、ここのは黄色味が強いので卵黄が多めかなって思います。バターの重さはそんなにないような気がします。
ホールのトロペジェンヌを持つとずっしりとした重さがあります。
ほかの店のトロペジェンヌもたくさん食べたことがありますが、ここのは全く別物です。クリームの美味しさが格段に違います。
この店のトロペジェンヌのレシピは完全に秘密とされており、創業当時からまったく変わっていないそうです。新しいオーナーに引き継ぐ際も、ミカを含め3人のパティシエしか知らなかったそうです。
この店舗は南フランスにしかない(パリにもありましたが閉店)ので、ぜひ南フランスまで本物の味を堪能しにきてはいかがでしょうか。




トロペジェンヌのレシピ
タルト・トロペジェンヌはブリオッシュ生地の発酵やムースリーヌクリームの冷蔵など、作成までに時間がかかります。前日にブリオッシュ生地とカスタードクリームを準備して、翌日に生地の焼成とムースリーヌクリームの作成を行ないましょう。
トロペジェンヌの材料
- ブリオッシュの材料
-
- 薄力粉 250g
- 塩 5g
- グラニュー糖 10g
- 生酵母(イースト) 10g
- 卵 150g(3個分)
- バター 125g
- 卵(表面に塗る用) 1個
- あられ糖 50g
- シロップ 100g
- ムースリーヌクリームの材料
-
- 牛乳 500g
- 卵黄 80g(卵4個分)
- グラニュー糖 130g
- コンスターチ 30g
- 薄力粉 30g
- 無塩バター 250g
- オレンジ水(あれば)
ブリオッシュ生地の作り方
下記リンク内の1次発酵前まで行い、生地を冷蔵庫で2時間以上冷やします。生地は24時間後までは冷蔵可能ですので、1次発酵まで前日に作っておいてもかまいません。
- ボウルに薄力粉、塩、砂糖、卵、酵母を入れ、8分程度こねます。
- 細かく切ったバターを加えて、バターがしっかり混ざるまで10分程度こねます。生地に艶が出てくればOKです。
- 濡らした布巾やラップをかけ、常温に30分置きます。
- 布巾を外し、生地に拳を突っ込みガスを抜きます。
- 濡らした布巾かラップをかけ、冷蔵庫で2〜24時間冷やします。
- オーブン板に生地を丸く平らに伸ばし、表面に卵液を刷毛で塗ります。
- 30〜40℃のオーブンに入れ、45分〜2時間ほど発酵させます。
- 再度表面に卵液を塗り、あられ糖をふります。
- 予熱した180℃のオーブンで25分ほど焼きます。
- 焼成後、表面にシロップを塗ります。
ムースリーヌクリームの作り方
- 片手鍋に牛乳を入れ、中火にかけます。
- 牛乳を温めている間に、ボウルに卵黄と砂糖を入れ、白っぽくなるまで泡立て器ですり混ぜます。
- 薄力粉とコンスターチを加えてすり混ぜます。
- 沸騰した牛乳の1/3量をボウルに流し入れ、泡立て器で混ぜます。混ざったら、それを片手鍋に戻します。
- 片手鍋を中火にかけ、泡立て器で混ぜます。次第に生地にとろみがついてきます。
- クリームが沸騰して「ポフッ」と気泡がでてきて、火にかけたまま1分ほど混ぜ続けます。
- 鍋を火から外し、ラップの上にクリームを流し入れ、冷蔵庫で1時間以上冷やします。
- 冷やしたクリームをボウルに入れ、泡立て器でほぐします。
- 別のボウルに、冷たいバター入れ、スパチュールでやわらかく滑らかにします。
- クリームにバターを少しずつ加えて、泡立て器で混ぜ合わせます。
- 冷蔵庫で30分〜1時間冷やします。
トロペジェンヌの組み立て
- ブリオッシュ生地をパン切り包丁で水平方向に半分に切ります。
- 底の部分の生地にムースリーヌクリームを絞ります。
- 蓋部分のブリオッシュを被せます。
- 冷蔵庫で2時間ほど冷やします。
トロペジェンヌに関連するお菓子
参考にしたサイト
- LA TARTE TROPÉZIENNE
- La tarte tropézienne, un dessert d’origine polonaise popularisé par Brigitte Bardot (Europe 1)
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