フランスのクリスマスは、1年でもっとも華やかな季節です。街中がイルミネーションで輝き、パティスリーやショコラトリーのショーウィンドウには、美しく並んだお菓子やチョコレートがずらりと並びます。
この時期にしか出会えない特別なチョコレートや、ちょっと面白い歴史を持つお菓子もたくさんあります。
フランスの人々にとって、クリスマスは「食べる喜び」と「分かち合う幸せ」を感じる季節でもあるのです。
この記事では、そんなフランスのクリスマスの雰囲気を感じながら、イベントの様子や、この時期ならではの伝統的なお菓子をご紹介します。
フランスのクリスマスのイベント
フランスのクリスマスイベントは11月下旬くらいからはじまり、12月25日のクリスマスにピークを迎え、1月上旬までクリスマスの華やかな名残が残っています。
アドベント:クリスマスを待ち望む時期
待降節はアドベント(Avent)といい、イエス・キリストの誕生を待ち望む期間のことです。12月25日から数えて4週前の日曜日から始まり、12月24日まで続きます。
クリスマスはフランスの人々にとって大切な行事で、12月に入ると町中がクリスマス一色となります。町ではマルシェ・ド・ノエル(クリスマスマーケット)が開かれ、パティスリーやショコラティエ、スーパーなどさまざまな場所でクリスマス特有のお菓子に出会うことができます。
アドベントカレンダーはお菓子やチョコレートだけでなく、化粧品や香水、紅茶やジャムなどもあります。
アルザス地方ではベラヴェッカやノネットといったスパイスの効いたお菓子、クリスマス時期のサブレであるブレデルが食べられています。パンデピスもクリスマスの定番のお菓子で、シュトーレンも全国的に見られるようになりました。トリュフやパピヨットなどのボンボンショコラも欠かせません。さらに、ステッキの形をしたシュクル・ドルジュはクリスマスをイメージするお菓子です。
サン=ニコラの日:サンタクロースのモデル
12月6日は聖人ニコラを祝う日のことで、ベルギー、ルクセンブルグ、ドイツ、オーストリア、スイス、アルザスを中心とするフランス北東部で祝われています。この聖人ニコラはサン=ニコラ(Saint-Nicolas)とフランス語で言います。
その昔、ニコラが子供たちを助けたという伝説に由来しており、聖人ニコラはこどもの守護聖人として崇められています。12月5日の夜から6日にかけて、子どもたちは聖人ニコラのロバにえさを与えるために、靴下に干し草とオート麦のパンをいっぱいに詰めて煙突にぶら下げました。
これがクリスマスに枕元に靴下を置いておく由来となっています。4世紀には聖人ニコラの形を模したアニス風味のビスキュイやパンデピスで祝っていました。
また、聖人ニコラはサンタクロースのモデルになっている人物のことで、パンデピスにはサンタクロースをアイシングで描いていたりします。アルザス地方ではマナラという人の形をしたブリオッシュを食べて祝う習慣があり、他の地方でもこの習慣はブーランジュリーを中心に広がっています。
ノエル:フランスで大切な日
12月25日のクリスマスはフランスでは1年でもっとも大切なイベントです。25日は祝日となり、パティスリーなどほとんどの店や観光施設が閉まります。
クリスマスはフランス語でノエル(Noël)といいます。
24日夜は家族でご馳走を食べる機会で、フォワグラやスモークサーモン、牡蠣などの海の幸、七面鳥のローストなどが定番です。クリスマスケーキは薪の形をしたビュッシュ・ド・ノエルが定番です。南フランスではトレーズ・デセールという13種類のお菓子を食べる伝統もあります。
クリスマス当日だけでなく、11月下旬からのクリスマスを感じる時期に食べるお菓子としては、ブレデルやベラベッカ、スペキュロス、パピヨット、ノネット、シュトーレンなどがあります。イタリア由来のパネットーネもクリスマス時期によく食べられます。
フランスのクリスマスに食べるお菓子
クリスマス時期はたくさんのお菓子がいたるところに並び、(合法的に誰にも言われずに)たくさんお菓子を食べてもいいという雰囲気が流れます。
フランスでクリスマス時期に食べられるお菓子をまとめました。
ビュッシュドノエル:フランスのクリスマスケーキ

ビュッシュ・ド・ノエルはフランスのクリスマス時期に食べる薪の形をしたケーキのことです。
ブッシュ・ド・ノエルの構成はさまざまなバリエーションがあります。クラシックな例として、薄く焼いたジェノワーズにクレームオブール(バタークリーム)を挟んで巻き、表面にクリームを塗り、筋をつけ木の皮の模様をつけ、表面にメレンゲやマジパンで作った人形などを飾ります。
現在ではこの限りではなく、ムースやメレンゲ、アイスクリーム、チョコレートで土台を作ることもあります。もはや、薪の形をしていないこともあり、フランスでは縦長の形であれば「ビュッシュ・ド・ノエル」としているようにも感じます。それらのフレーバーもさまざまなものがあり、チョコレートやマロン、キャラメル、ピスタチオ、バニラ、レモンやフランボワーズなどがあります。
大人数用のホールサイズのビュッシュ・ド・ノエルもありますが、ひとり用の小さなものもあります。
ボンボンショコラ:クリスマスの王様

ボンボンショコラとはチョコレートの小さなお菓子のことです。いわゆる「一粒チョコ」のことです。フランスでは「ショコラ」と言えば、この「ボンボンショコラ」を指すこともあります。
中身にはアーモンドやヘーゼルナッツを用いたプラリネ、ガナッシュ、マジパン、ナッツとチョコレートを合わせたジャンドゥジャなどを詰めます。中身の外側はクーヴェルチュールチョコレートで覆われています。
トリュフ:クリスマスの女王

トリュフチョコレートは生クリームとチョコレートで作るガナッシュを丸め、カカオパウダーを表面にまぶしたチョコレート菓子です。ボンボンショコラやパピヨットの一種です。
トリュフは冬の定番で、特にクリスマス時期にとても人気があります。ショコラティエでも1kg単位で購入していくお客さんも多かったです。
パピヨット:クリスマスの愛のメッセージ

パピヨットとは、クリスマスの時期に出回るボンボンショコラのひとつで、両端がヒラヒラした金色の包装紙に包まれています。中にはチョコレートと一緒に、なぞなぞや冗談、詩やことわざが書かれた紙が入っているのが特徴で、さらに小さな爆竹が仕込まれているものもあります。
プラリネやガナッシュの入ったボンボンショコラが主流ですが、トリュフやフルーツゼリー(パート・ド・フリュイ)などもあります。
シュトーレン:ドイツ由来のクリスマス菓子

シュトーレンとはクリスマス時期に作られる伝統的なドイツのお菓子のことです。ぎゅっと詰まった生地でどっしりとした長い山形で、表面にはたっぷりと粉砂糖を振りかけています。
卵やバター、卵を加えて作るブリオッシュ生地にオレンジの皮とレモンの砂糖漬け、干しぶどう、アーモンドやヘーゼルナッツを加えて、生地の中にマジパンを詰めて焼いて作ります。シナモン、ナツメグ、カルダモン、クローブなどの香辛料とブランデーやラムで香りをつけています。
ドイツのドレスデンのシュトーレンが有名で、フランスではアルザスやロレーヌ地方で伝統的に食べられています。ドイツではクリスマス時期だけではなく1年中作られています。
パネットーネ:イタリア由来のクリスマス菓子

パネットーネとは、イタリア・ミラノ発祥の、ブリオッシュに干しぶどうやフルーツコンフィを加えてつくられるクリスマスのお祝い用のパン菓子です。丸いドーム状の形で、高さは約12~15cmほどあります。
生地は小麦粉と酵母に牛乳やバター、卵、砂糖でつくり、クラッシックなパネットーネには干しぶどう、シトロンとオレンジの皮のコンフィを加えます。そのほかにもチョコレートやグラサージュで表面を覆ったり、リモンチェッロで香りをつけたり、サバイヨンなどのクリームやチョコレートチップを詰めることもあります。
イタリアを代表するクリスマス菓子ですが、隣国フランスでもクリスマスには欠かせないほど定番のお菓子となっています。
ブレデル:クリスマスを彩るアルザス地方のサブレ

ブレデルとはアルザス地方のクリスマス時期に作られる小さな焼き菓子のことです。主にサブレやクッキーのことを指します。ハートや動物、星、葉っぱなどの形をしていて、60ほどの種類があると言われています。
バターと卵、砂糖で作る生地にレモンコンフィ、砕いたアーモンドを加えて、シナモンやアニスなどで香りをつけます。さらに、小さなパンデピス、シナモンクッキー、バターサブレ、アーモンドやヘーゼルナッツ、クルミを加えた菓子などがあります。
アルザス地方では伝統的に11月からのアドベントの時期に家庭で作っていました。現在ではアルザス地方のビスキュイトリー(ビスケット屋)や全国のマルシェ・ド・ノエルでも販売しています。
パンデピス:クリスマスのスパイス菓子

パンデピスはスパイスと蜂蜜を加えて焼いたお菓子です。スパイスはシナモン、生姜、クローブ、ナツメグやアニスを用いるのが一般的です。
形はパウンドケーキのようですが、バターなどの油脂をくわえないため、やや硬くしっとりとした生地です。甘味は砂糖ではなく蜂蜜を加えるため、ねっとりとした食感となります。
そのままスライスして食べますが、クリスマス時期には薄く切ったパンデピスに好きなチーズをのせて食べます。特に青カビ系のチーズがよく合います。
ノネット:ジャム入りパンデピスの伝統菓子

ノネットとは丸くて表面を糖衣し、中身にジャムや蜂蜜をつめたパンデピスです。
フランス北東部のランスとルミルモン、中東部のディジョンの銘菓として知られています。
カシスやアプリコット、フランボワーズなど果物のジャム、チョコレートやキャラメルを詰めたノネットもあります。
オランダでは12月6日のサン=ニコラの日の前夜、修道女は聖人ニコラの到来を告げるためにノネットなどのお菓子を子供の部屋に投げ入れていました。
スペキュロス:クリスマスを彩るシナモン菓子

スペキュロスは、スパイスをきかせた香ばしい薄焼きビスケットのことです。
焦げ茶色の生地に、木型で押された模様が浮かんでいるのが特徴です。ベルギーやオランダ、ドイツ西部のヴェストファーレン地方の名物として知られ、特に12月6日の「サン=ニコラの日」やクリスマスに欠かせないお菓子ですが、今では一年を通して楽しまれています。
ベルギーやフランスのカフェでは、コーヒーや紅茶のお供に小さなスペキュロスが添えられることもあり、温かい飲み物と一緒にいただくと、そのスパイスの香りがふわっと広がってとても心地よい味わいです。
ベラベッカ:ドライフルーツぎっしりのお菓子

ベラベッカとは、フランスのアルザス地方発祥のドライフルーツをたっぷり加えて焼いたパンのことです。
ドライフルーツには干し梨、イチジク、プラム、アプリコット、レーズン、グロゼイユ(赤スグリ)を用います。さらに、ヘーゼルナッツやアーモンド、クルミといったナッツも加え、シナモンやナツメグ、レモンやオレンジの皮、キルシュで風味をつけます。
砂糖や卵、バターは加えていないため、お菓子とは言わずにパンと言われています。たっぷりのドライフルーツを加えることで甘味を足しています。
ベラベッカは栄養を豊富に含み、昔の飢餓の時期に食べるために作られていました。伝統的にはアルザス地方(特にバ=ラン県)では12月24日の真夜中のミサの後に食べられていました。
マナラ:聖ニコラを模した菓子パン

マナラとはアルザス地方発祥の人形パンのことです。今ではフランス各地で12月のクリスマス時期に出回っています。
人形の目は伝統的には干しぶどうで作り、現在ではチョコレートチップでつくることもあります。また、口や帽子、洋服のボタンなども干しぶどうやチョコレートでつくります。パンはふわふわのブリオッシュ生地を使います。
主には、12月6日のサン=ニコラの日の夜に、ショコラショーに浸けながら食べるとされています。11月末ごろから12月のサン=ニコラの日前後まで、ブーランジュリーやパティスリーに並んでいます。
フランス東部のフランシュ=コンテ地域圏では、ジャン・プチボノムと呼ばれており、プレーンのブリオッシュに砂糖やチョコレートチップを飾ります。この人形パンはかつて冬の悪魔などの脅威を追い払って、不運から逃れると言われていました。
トレーズデセール:南フランスの伝統菓子
トレーズ・デセールとはマルセイユやプロヴァンス地方といった南フランスで、クリスマス時期に食べる13種類の甘味のことです。日本ではあまり馴染みのないお菓子ですが、南フランスではよく見られるデザートです。
トレーズ・デセールはキリストの最後の晩餐に由来しており、12人の弟子とキリストで13をあらわしています。
13種類のお菓子は町や地域によって種類は異なりますが、伝統的にマンディアン(クルミ、またはヘーゼルナッツ、ドライいちじく、レーズン、アーモンド)が含まれます。マンディアンとはクルミ(ヘーゼルナッツ)とドライいちじく、レーズン、アーモンドの4つです。
シュクル ドルジュ:クリスマスのステッキ飴
シュクル・ドルジュとは橙色のベルランゴ型(三角錐)や半透明の棒状の大麦のエキスの入った飴のことです。
クリスマス時期には赤と白のストライプのステッキの形のキャンディが定番です。英語でキャンディケイン(Candy cane)といいます。