フランスの東部に位置するアルザス地方ストラスブールを中心とする地方のことをグラン・テスト(Grand Est)地域圏と言います。以前のアルザス地域圏、シャンパーニュ=アルデンヌ地域圏、ロレーヌ地域圏が統合されました。
ストラスブール周辺の地方菓子は隣のドイツやオーストリアなどから影響を受けたお菓子が特徴です。
この記事では、ストラスブールを中心としたアルザス地方でよく見られるお菓子を紹介しています。
アルザス地方の特徴
アルザス地方を含むグラン・テスト地域圏(Le Grand Est)はフランスの北東部に位置し、国境をベルギーとルクセンブルク、ドイツと接しています。かつてのシャンパーニュ・アルデンヌ地方(Champagne-Ardenne)とアルザス=ロレーヌ地方(Alsace-Lorraine)を統合した地域圏。首府はストラスブール(Strasbourg)です。
歴史的にも地理的にもドイツの影響を受けており、料理やお菓子の名前にもドイツ語方言のアルザス語が使われていることがあります。

アニョーパスカル
アニョーパスカル(Agneau Pascal)は子羊の形をしていて、フランスのアルザス地方で復活祭のときに食べるお菓子のことです。
あわ立てた卵白と砂糖に小麦粉を加えた生地を子羊の形をした型に入れて焼いてつくります。焼きあがったお菓子の表面に粉砂糖をふり、首にリボンを巻いています。
アニョー(Agneau)とは子羊のことで、パスカル(Pascal)はキリストという意味です。
昔はキリスト教徒は復活祭の前の時期は卵や肉などを食べることが禁じられていました。その間に鶏が産んだ卵を消費するためにアニョーパスカルをはじめとする卵を使ったお菓子が作られるようになりました。今でもアルザス地方では復活祭の時期に食べられているお菓子です。
クグロフ

クグロフ(Kouglof)とは空洞のある王冠の形でレーズンの入った甘くてふわふわのお菓子です。
クグロフの頂上にはアーモンドを飾って、表面には粉糖が振っています。クグロフは円錐型でひねったような溝模様があり、縦に穴があいている型で焼きます。縦の穴は均一に生地に熱を通すためにあけられました。
クグロフ型はバ=ラン県(Bas-Rhin)のスフレンアイム村(Soufflenhiem)の赤土を使って作る陶器が有名で、繊細なお菓子の香りが長く残るのが特徴です。元々はフランスではアルザス地方の伝統菓子ですが、現在では他の地方でも見られるお菓子です。
クグロフは中世末からドイツ周辺のルクセンブルク、スイス、オーストリア、ポーランドなどの国、フランスではアルザス、ロレーヌ、フランドル地方でつくられていました。結婚式や洗礼式といったお祝いの日に食べていました。
18世紀のポーランド出身のロレーヌ公国のスタニスラス王もクグロフが大好きだっでした。王が乾燥したクグロフをラム酒をかけて食べたことにより、ババオラムが誕生しました。
スールマカロン

スールマカロン(Soeurs Macarons)とはフランス北東部の町ナンシーで生まれたマカロンです。マカロン・ド・ナンシ(Macaron de Nancy)とも呼ばれています。
表面が固くひび割れしていて、中はやわらかい食感のマカロンです。紙の上に生地を絞って焼き、紙がついたまま販売しているのが特徴です。
16世紀、メディチ家のカトリーヌ・ド・メディシスがフランス王アンリ2世に嫁入りした際に、イタリアからフランスにマカロンが伝わりました。
その後、カトリーヌの孫がナンシーに修道院を建て、そこだけでこのマカロンが作られるようになりました。18世紀後半に2人の修道女によって、マカロンは修道院の外に出て、町に広まっていきました。
パンデピス

パンデピス(Pain d’épices)とはライ麦や卵などの生地に蜂蜜とスパイスを加えて焼いたお菓子のこと。
スパイスはシナモン、生姜、クローブ、ナツメグやアニスなどを使います。
フランスの中央にある町ディジョンではパウンド型、アルザス地方やドイツや東ヨーロッパではクッキータイプのパンデピスが見られます。
パウンド型のパンデピスはバターなどの油脂をくわえないため、やや硬くグッと詰まった生地です。そのままスライスして食べますが、薄く切ったパンデピスに好きなチーズをのせて食べると絶品です。特に青カビ系のチーズがよく合います。クッキータイプのパンデピスは大きな形で表面にアイシングで模様や絵を描いていて、クリスマス時期によく見られます。
シュトーレン

シュトーレン(Stollen)はクリスマス時期に作られる伝統的なドイツのお菓子です。ドイツのドレスデンのシュトーレンが有名で、フランスではアルザスやロレーヌ地方で伝統的に食べられています。
ぎゅっと詰まった生地でどっしりとした長い山形で、表面にはたっぷりと粉砂糖を振りかけています。
卵やバター、卵を加えて作るブリオッシュ生地にオレンジの皮とレモンの砂糖漬け、干しぶどう、アーモンドやヘーゼルナッツを加えて、生地の中にマジパンを詰めて焼いて作ります。シナモン、ナツメグ、カルダモン、クローブなどの香辛料とブランデーやラムで香りをつけています。
ブレデル

ブレデル(Bredle / Bredele)はアルザス地方のクリスマス時期に作られる小さな焼き菓子です。主にサブレやクッキーのことを指します。ハートや動物、星、葉っぱなどの形をしていて、60ほどの種類があると言われています。
バターと卵、砂糖で作る生地にレモンコンフィ、砕いたアーモンドを加えて、シナモンやアニスなどで香りをつけます。さらに、小さなパンデピス、シナモンクッキー、バターサブレ、アーモンドやヘーゼルナッツ、クルミを加えた菓子などがあります。
ベラベッカ

ベラベッカ(Bierewecke)はフランスのアルザス地方発祥のドライフルーツをたっぷり加えて焼いたパンです。
ドライフルーツには干し梨、イチジク、プラム、アプリコット、レーズン、グロゼイユ(赤スグリ)を用います。さらに、ヘーゼルナッツやアーモンド、クルミといったナッツも加え、シナモンやナツメグ、レモンやオレンジの皮、キルシュで風味をつけます。
砂糖や卵、バターは加えていないため、お菓子とは言わずにパンと言われています。たっぷりのドライフルーツを加えることで甘味を足しています。
ベラベッカは栄養を豊富に含み、昔の飢餓の時期に食べるために作られていました。
伝統的にはアルザス地方(特にバ=ラン県)では12月24日の真夜中のミサの後に食べられていました。現在でもクリスマス時期のお菓子として親しまれています。
リンツァートルテ
リンツァートルテ(Linzer Torte / Tarte de Linz)はオーストリア第3の都市リンツ(Linz)で誕生したお菓子です。
主にドイツやオーストリアで食べられていますが、フランスのアルザス地方でも見られます。
シナモンやクローブなどの香辛料で香りづけした生地に、グロゼイユやフランボワーズのジャムを詰めて作ります。表面は生地を格子模様に重ねているのが特徴です。
スペキュロス

スペキュロス(Speculoos)はサン=ニコラや動物などの形をした伝統的なビスキュイで、シナモンで香りづけして粗糖(Vergeoise)を使っていおり、焦げ茶色をしたお菓子です。
ベルギーやオランダ、ドイツの西部、フランスの北部ではクリスマス前のアヴェントやサン=ニコラの日(12月6日)に食べます。現在では、人形の形をしておらず四角い形で、カフェのお供として出されるビスケットでもあります。
マナラ

マナラ(Manala)とはアルザス地方でクリスマス前の時期にみられる人の形をした菓子パンのことです。
マナラ(Manala)はアルザス語で「小さな男の子」という意味があります。マナラはクリスマスに関係のあるお祭りから生まれました。
フランスの北東部で12月6日にサンタクロースのモデルになっている聖人ニコラを祝う伝統的な祭りがあります。聖人ニコラの祭りはアルザスを中心とするフランス北東部だけでなく、ベルギー、ルクセンブルグ、ドイツ、オーストリア、スイスといった北ヨーロッパで祝われます。
昔、肉屋が3人の子供をバラバラに刻み塩漬けにしたが、その予兆を感じたニコラによって子供たちが復活したという伝説が元になっています。それ以来、ニコラはこどもの守護聖人として崇められています。12月5日の夜から6日にかけて、子どもたちは成人ニコラのロバにえさを与えるために、長靴下に干し草とオート麦のパンをいっぱいに詰めて煙突にぶら下げました
これがクリスマスに枕元に靴下を置いておく習慣になっていきます。アルザス地方ではマナラという人形のブリオッシュを食べて祝う習慣があります。ほかのフランスの地方でも伝説は知らない人は多いようですが、マナラはパン屋さんなどでよく見られます。
プレッツェル

プレッツェル(Bretzel)は結び目があり、表面に岩塩をまぶした塩味の焼き菓子のことです。上部を交差させた形をしており、下部は切れ目があり、濃い茶色をしているのが特徴です。
粗塩をたっぷりとまぶしたパンタイプのプレッツェルが定番ですが、チーズをたっぷりとのせた香ばしいプレッツェルもあります。さらに、小さなスナックタイプのプレッツェルはおつまみの定番となっており、ふわふわとしたパンのブリオッシュ生地、揚げ菓子タイプのプレッツェルなどさまざまなプレッツェルがあります。
ドイツを中心にフランスのアルザス地方、オーストリアやスイスなどで見られます。
ノネット

ノネット(Nonnette)は丸くて表面を糖衣し、中身にジャムや蜂蜜をつめたパンデピスです。
フランス北東部のランスとルミルモン、中東部のディジョンの銘菓として知られています。パンデピスとはスパイスと蜂蜜の入ったお菓子のことです。
カシスやアプリコット、フランボワーズなど果物のジャム、チョコレートやキャラメルを詰めたノネットもあります。
一般的には、フランスでは1年中出回っていますが、ランスでは12月6日のサン=ニコラの日を祝うお菓子として知られていました。
オランダではクリスマス時期に食べることもあります。12月6日のサン=ニコラの日の前夜、修道女は聖人ニコラの到来を告げるためにノネットなどのお菓子を子供の部屋に投げ入れていました。








